2007年11月21日

「見えない織物 2」 (置賜)

おばぁちゃん、おばぁちゃん、とんと昔、お話しして。
子供の声が寝室から聞こえてきた。
今夜もおばちゃんは孫にとんと昔を語り継ぐ。
こうして、何百年も人の心のありようが受け継がれていくんだろう。

設定:祖母/よし子  孫:剛志(小4)

連載 小説風民話 「見えない織物 2」 (置賜) 第二回

お城についた悟介さんは、門番に年貢を持って来たから、お殿様に取り次ぐように頼んだの。
では、ということでお城の広い庭に通されたわ。
最初に出てきたのは、お役人。
「その方、年貢を持ってきたと言うが、どごさある。どこさもないではないか。」
「いえいえ、ちゃんとここにござります」 って言うと、風呂敷を出したの。
「これが、年貢じゃと。」
「へぃ。この風呂敷の中には、山のウグイスの声を縦糸に、野原のマツムシの声を横糸にして織り上げだ、世にも珍しい綾織が入ってござりやす。」
「どれどれ、ほだな織物どごさある。」
「へぃ、こごさ。」って、風呂敷ば広げて見せの。
役人は目ば皿にして見たけども、織物なんて何もないのね。
「こらっ、何にもなねぇぞ。へだなずほ(嘘)こぐど、ただではすまぬ。そこになおれ。」って怒ってしまったわ。
それでも、悟介さんは平気の平左。
「お役人、この織物見えのがっす。んだらば、あんたの心と目はどうも曇っているようだなっす。」
「なにを、百姓の分際でわしを愚弄すとは…… そのままでは捨て置かぬ」 って、顔を真っ赤にして頭から湯気を上げたんだって。
悟介さんは、それでも、涼しい顔してこう言ったの。
「お役人様、その短気が邪魔して、世の中のごとも、この織物のごとも何も見えねんであんめが。そもそも、この織物は、心清く正き者にしか見えぇものでよっす。」 って、平然と言ってのけたんだて。
「なにおっ! そのような悪口雑言、許さぬ。首をはねてくれる。」と、役人は刀をぬいて、上段に構えたとき、「まてまて」と、止める人が出てきたの。
その人が、お殿様だったの。
「騒ぎのわけを聞こう。」と、お殿様は言っわ。
役人がかくかくしかじかって、わけを話したの。
お殿様は「うんうん」とうなずきながら聞いたの。
話を聞き終わった殿様は、「どれどれ」って、悟介さんの前にしゃがみこんで、広げられた風呂敷をみたの。
すると、お殿様はニコニコ笑って、「その方が、悟介と申すか。それにしても、見事な綾織であるな。七色に光って、こするとウグイスとマツムシの声聞こえる。」 って、言ったの。
「ほーっ、さすがはお殿様だねっす。この綾織の美しさがお分かりいただけるとは」
「おう、分かるぞ、このような美しい綾織は世も初めてじゃ」
「お殿様のお心は、まさに清く正しくござる」
悟介さんは下をむいて、舌を出してニンマリしていたんだって。
お殿様は、「左様か、わしの心は清く正しいかの?」
[この綾織が、お殿様の目にはちゃんと見えておられることが、何よりの証拠でござります。]
「これ悟介、この綾織を年貢の代わりに納めたいと申すのだな」
「へい、今年の夏は冷害だっけもんだがらねっす、村の衆も年貢のこどですっかり頭抱えでいでよ、ほんで、おらが村ば代表して、お殿様さ、年貢の代わりに、世にも珍しい綾織ばもってきだどごよっす。なんたべね、お殿様、この綾織で年貢の代わりにしてもらわんねべが。」と、悟介さんは言ったんだって。
「ほう、それで、この綾織の値はいかほどであるか?」
「んだね、この綾織ば織るのには、十年、山さ籠もったがらねっす。十年分の値となると三十両もらうべがね。」
「三十両か、安いの。ちょうど村に申し付けた年貢の値じゃな。それでは、手間賃として、さらにそちに十両をつかわそう。それでどうじゃ。」
「はっ、はぁ~。」って、悟介さんは、お辞儀を何回もしていたの。
悟介さんは、年貢を無事に納めたほかに、十両を懐にして、村に帰ってきたんだって。村のみんなは大喜び! 祭りをひらいて、みんなでお祝いしたんだって。
お城では、お殿様は天守閣から、祭りの様子を眺めて、ニコニコ笑っていたんだって。
どんぴんさんすけ かっぱの屁


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